法務省法制審議会 民法(遺言関係)部会

遺言制度の見直し(デジタル技術を活用した遺言など)の経緯 法制審議会の議論から保管証書遺言の創設・押印要件の廃止まで

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パソコンなどで作成できる遺言の方式を設けるかどうかを中心にした、遺言制度の見直しです。法務大臣が2024年2月に法制審議会へ諮問し、民法(遺言関係)部会で約2年審議されました。答申を受けた「民法等の一部を改正する法律」は2026年6月17日に成立し、6月24日に公布されています(令和8年法律第45号)。

成立した法律では、法務局で保管する「保管証書遺言」が新しく設けられ、自筆証書遺言などの押印要件が廃止されます。施行日はまだ政令で定められていません。また、この改正に合わせた税制上の措置が、令和9年度税制改正要望に入っています。

同じ法律には成年後見制度の見直しも含まれていますが、この記事では遺言の部分だけを扱います。

決まるまでの流れ(時系列)

  1. 諮問(2024年2月15日)法制審議会第199回会議で、法務大臣が諮問第125号を発し、新設の民法(遺言関係)部会に付託
  2. 部会で審議開始(2024年4月16日)民法(遺言関係)部会第1回会議。部会長は大村敦志委員
  3. 中間試案(2025年7月15日)部会第11回会議で取りまとめ。パブリック・コメントは7月29日から9月23日まで、意見は49件(団体27件、個人22件)
  4. パブコメ結果の報告と案の絞り込み(2025年10月21日)部会第13回会議。その後、第14回(11月18日)・第15回(12月9日)で要綱案のたたき台、第16回(12月26日)で要綱案(案)を審議
  5. 要綱案の決定(2026年1月20日)部会第17回会議で全会一致
  6. 答申(2026年2月12日)法制審議会第204回会議で全員賛成、会議終了後に法務大臣へ答申
  7. 閣議決定・国会提出(2026年4月3日)第221回国会(特別会)に民法等の一部を改正する法律案として提出
  8. 成立・公布(2026年6月17日・24日)衆議院本会議(5月26日)、参議院本会議(6月17日)で可決。6月24日公布
  9. 税制改正要望(2026年8月)令和9年度税制改正要望に、民法改正に伴う措置が法務省主担の項目として掲載

諮問:デジタル技術を使った新しい遺言の方式が中心

法制審議会第199回会議(2024年2月15日)の議事録によると、諮問は次のとおりです。

諮問第125号。情報通信技術の進展及び普及等の社会情勢に鑑み、遺言制度を国民にとってより一層利用しやすいものとする観点から、遺言者が電子的な手段を用いて作成することのできる新たな遺言の方式に関する規律を整備することを中心として、遺言制度の見直しを行う必要があると思われるので、その要綱を示されたい。

同じ会議で竹内幹事(民事局長)は、諮問の背景として政府方針を挙げています。

令和4年6月に閣議決定されました規制改革実施計画においては、国民がデジタル技術を活用して遺言を簡便に作成できるような新たな方式を設けることなどについて必要な検討を行うものとされております。

(出典:法制審議会第199回会議 議事録)

中間試案(2025年7月15日):新しい方式は4つの案を併記

部会第11回会議で取りまとめられた中間試案は、新たな遺言の方式として、次の案の一つまたは複数を創設することを「引き続き検討する」としていました。

  • 甲1案:遺言の全文等を電磁的記録で作成し、証人2人以上の前で全文等を口述し、その状況を録音・録画する
  • 甲2案:証人の立会いを不要とし、電子署名や、遺言者以外の者が口述できないようにする措置をとる(民間事業者のアプリケーションの利用を想定)
  • 乙案:電磁的記録で作成し、公的機関で保管する
  • 丙案:プリントアウトなどした書面で作成し、公的機関で保管する
中間試案の新たな遺言の方式の案を並べた図。甲1案(証人の立会いと録音・録画)、甲2案(証人を要せず、これに相当する措置)、乙案・丙案(電磁的記録または書面で作成し、公的機関で保管)の要件を示している
出典:法務省民事局「民法(遺言関係)等の改正に関する中間試案に関する参考資料」(令和7年7月)2ページ

現行の自筆証書遺言の押印については、2つの案が並んでいました。

【甲案】押印を要しないものとする。 【乙案】引き続き押印を要するものとする。

秘密証書遺言については、次のとおりとされていました。

秘密証書遺言については、下記2を除き、現行の方式要件を維持するとともに、デジタル技術を活用した新たな方式を設けないものとする。

(出典:民法(遺言関係)等の改正に関する中間試案 8〜9ページ)

中間試案は、このほか死亡危急時遺言と船舶遭難者遺言で録音・録画を使う新たな方式を検討するとし、財産目録以外の自書を要しない範囲は拡大しないとしていました。

法制審議会第203回会議(2025年9月18日)で中間試案が報告された際、芳野委員は次のように発言しています。

今回示された新たな遺言の方式は、どの案も証人や保管が要件とされており、遺言者の負担が大きいと考えます。議論の出発点を踏まえ、より簡便にデジタル化できる方式を提案できないか、引き続き御検討をお願いしたいと思います。

(出典:法制審議会第203回会議 議事録)

パブリック・コメントの結果と案の絞り込み(2025年10月21日)

部会第13回会議で、事務当局の大野関係官は意見募集の結果を報告しました。

7月29日から9月23日までの約2か月間、e-Govのホームページに掲載するなどしてパブリック・コメントの募集をいたしました。その結果、団体、個人から合計49件の意見が寄せられたところでございます。

甲2案に寄せられた意見について、宮村関係官は賛否の両方を紹介しています。

次に、甲2案に対しては、コスト面、心理面の負担が軽減される可能性があることや、遺言制度をより利用しやすいものとする観点から有益であることなどの肯定的な意見も寄せられたものの、甲1案に対するものと同様、ディープフェイク技術による偽造等の点への懸念のほか、民間事業者による業務の適正性やシステム構築のための負担や利用手数料が高額となることへの懸念などの点で否定的な意見も多く寄せられました。

そのうえで、事務当局は甲2案を採用しないことを提案しました。

甲2案については、これまでの部会の議論やパブリック・コメントにおいて指摘されている遺言に係る電磁的記録の事後的な改変やなりすまし等を防止するための適切な措置が十分に示されているとはいえず、関与する民間事業者の業務の適正やその認証、監督の制度についての懸念も指摘されていたことに加え、甲2案のニーズがどの程度あるかは不明であり、システムの開発や維持のコストが増加して手数料が高額となるおそれや、民間事業者の参入が確実ともいえない状況です。

(出典:いずれも民法(遺言関係)部会第13回会議 議事録)

委員・幹事の意見(第13回会議)

甲2案の不採用について。 萩原委員は賛成しました。

これはもう今回、甲2案的なものの導入は少し時期尚早ではないかと思っておりますので、甲2案の不採用については積極的に賛成させていただきます。

戸田委員も採否に異論はないとしたうえで、残る案にも対策の検討が必要だと述べています。

採否に関しましては、御提案の内容どおりで特に異論ございません。ただ、中間試案はいろいろな課題に対する対策が詳細に述べられていたわけではないので、様々な懸念が多数出てくるのは当然でございまして、それらの対策というのは、やはり今後詰めていく必要はあるだろうと思います。

甲1案(証人の立会い)について。 この回は採否を先送りする提案でした。日比野委員は、遺言の執行を受ける金融機関の立場から再考を求めています。

以上のような理由により、冒頭から申し上げたとおり、今回示された甲1案の遺言書の検認手続の在り方と、これを前提として甲1案を採用するということでどうかという点については、再考をお願いしたいと考えております。

小池(あ)委員も、検認手続の限界を指摘しました。

結局、遺言作成の時点において公的機関が保存に関与するのでなければ、被相続人死亡後、電磁的記録の偽造や変造の有無に関する紛争が生じることになり、その紛争に係る審理も高度に専門化、複雑化することが懸念されます。

一方で相原委員は、弁護士の間に両方の意見があると紹介しています。

甲1案について、弁護士のほかの何人かの意見の中で、なかなか細かい手続で厳しいかなと思いつつも、自筆証書遺言とパラレルという意味で、いわゆる法務局とか行政とかそういうところが関わらない自力でできる権利行使の場面も維持すべきではないかという意見を持っている、かなり強くそこの点について残してほしいと、可能な限り、やはりいわゆる作成者で完結する、保管官が関わらないというのもあり得るのではないかという意見もありました。一方で、証人とかをなくすわけだから、保管官ですか、そういうところできちんと対応して、一種の証人に代わるような第三者的な立場できちんとやってもらいたいというところの評価をする意見もありました。

押印要件の廃止について。 部会資料は押印を要しない甲案によるという考え方を示し、慎重な意見と賛成の意見が出ました。隂山委員は遺言の性質を挙げています。

一方で遺言に関しましては単独で行われるものであり、また、遺言の効力が発生したときには本人が存在していないという独特の性質があるのではないかとも考えています。

石綿幹事は、廃止の方向には賛成しつつ懸念を述べました。

時流を踏まえ、また、押印要件が真意性・真正性との関係では必須のものではないとの理解から、廃止する方向で検討するということ自体には賛成します。他方で部会資料にもあり、あるいは特に相原委員などが繰り返しおっしゃってくださっているような、完成品と下書きとの区別としての押印の機能はあるはずで、押印がなくなった場合にそれが何により担保されるのかという点は依然として懸念がありますので、その点について改めて更に御議論いただきたいと思います。

柿本委員は廃止に賛成しています。

全文及び氏名等を自書することにより、真意性・真正性を担保できると考えますので、廃止の意見に賛成でございます。

(出典:いずれも民法(遺言関係)部会第13回会議 議事録)

要綱案(2026年1月20日)と答申(2月12日)

部会第17回会議の議事概要には、次のように記されています。

上記1の審議の結果、部会資料17-1をもって「民法(遺言関係)等の改正に関する要綱案」とすることが全会一致で決定された。

(出典:法務省「法制審議会民法(遺言関係)部会第17回会議」ページ)

要綱案は、遺言の方式に「保管証書」を加え、自筆証書遺言の条文から押印を外しています。

遺言は、自筆証書、保管証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。

自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書しなければならない。

遺言者及び証人の押印要件(民法第970条第1項第1号、第2号及び第4号)については、廃止するものとする(注)。

(出典:民法(遺言関係)等の改正に関する要綱案 1、6ページ。3つ目は秘密証書遺言)

法制審議会第204回会議で、大村部会長は甲1案・甲2案にあたる方式を採用しなかった理由を次のように報告しました。

しかし、これらの方式については、偽造、変造や紛失等のリスクを懸念する指摘のほか、金融機関等において円滑に遺言を執行することが難しいのではないかとの指摘があったことなどから、いずれも採用するには至りませんでした。

保管証書遺言の要件の考え方については、次のとおりです。

保管証書遺言では遺言書保管官による本人確認及び遺言者による遺言の全文の口述等を要件とすることにより偽造を防止し、遺言が真意に基づくことの担保を図るとともに、法務局での保管を要するものとすることにより変造や紛失等のおそれを防止することとしております。

押印要件を廃止する理由は、次のように説明されています。

コロナ禍を契機に行政手続や民間の商取引等において押印を不要とする場面が増え、押印をめぐる慣行ないし法意識に変容が生じつつあることなどを踏まえ、自筆証書遺言及び秘密証書遺言における押印要件を廃止することとしております。

委員からは、賛成を前提に今後への注文が出ています。芳野委員の発言です。

法が施行された後、保管証書遺言を始め今回導入される遺言方式について、国民に対し丁寧に周知いただくとともに、船舶遭難者遺言に導入される新たな方式の運用状況や、デジタル技術、情報通信技術の進展などの状況の変化に応じて、遺言制度が国民にとってより一層利用しやすいものとなるよう、時機を見て改めて検討いただけるようお願いいたします。

早稲田委員は、死亡危急時遺言の新たな方式について述べています。

死亡危急という緊急時に作成されるものであることから、その真正性、真意性が十分担保できるよう、運用に当たっては御留意いただきたいと思っております。

採決の結果は次のとおりです。

議長及び部会長を除くただいまの出席委員数は17名でございますところ、全ての委員が御賛成ということでございました。

(出典:いずれも法制審議会第204回会議 議事録)

法案の提出と成立

首相官邸の閣議案件によると、民法等の一部を改正する法律案は2026年4月3日に閣議決定されました。衆議院の審議経過情報では、同日に衆議院が議案を受理し、5月22日に法務委員会、5月26日に本会議で可決されています。参議院では6月16日に法務委員会、6月17日に本会議で可決され、6月24日に公布されました(法律番号45)。どちらの院の記録も、審査結果は「可決」です。

法律案要綱では、遺言に関する部分が次のように示されています。

普通の方式の遺言として、保管証書遺言を創設する。保管証書遺言は、遺言の全文が記載又は記録された証書に遺言者が署名又はこれに代わる措置を講じ、遺言書保管官の前で遺言の全文を口述するなどし、第5の法務局における遺言書の保管等に関する法律の定めに基づき遺言に係る証書を保管しなければ、その効力を生じないものとする。

自筆証書遺言、秘密証書遺言及び特別の方式の遺言における遺言者、証人及び立会人の押印要件を廃止する。

施行期日は次のとおりです(第1の5が保管証書遺言、6が特別の方式の新たな方式、7が押印要件などです)。

この法律は、公布の日から起算して二年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、次に掲げる事項は、それぞれ次に定める日から施行する。(附則第一条関係) (1)第1の6及び7 公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日 (2)第1の5及び第5 公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日

(出典:民法等の一部を改正する法律案要綱)

参議院法務委員会は6月16日に附帯決議を行っており、保管証書遺言について、法務局の体制の充実や情報セキュリティ対策を求める項目が入っています(附帯決議の本文は出典欄の参議院のPDFで確認できます)。

関連する税制上の措置の要望(令和9年度)

金融庁が公表した令和9年度の税制改正要望の資料には、「その他の要望項目」として次の項目があります。

民法の改正(遺言制度の見直し)に伴う所要の措置〔法務省主担〕

(出典:金融庁「令和9(2027)年度税制改正要望について」7ページ)

財務省のページに掲載された法務省民事局の要望事項では、税目を相続税、所得税、贈与税としたうえで、要望の内容を次のように書いています。

本改正法による改正後の民法において、遺言書及び録音・録画に係る電磁的記録により作成された遺言を「遺言書等」と定義していることなどを踏まえ、相続税法及び所得税法等において「遺言書」という文言が用いられている規定につき、所要の措置を講ずる。

(出典:法務省 令和9年度税制改正要望事項「民法の改正(遺言制度の見直し)に伴う所要の措置」)

同じ資料は、船舶遭難者等遺言で録音・録画による方式が追加され、公布日から1年以内の政令で定める日に施行されることを、措置が必要な理由として挙げています。

いまどの段階か

法律は成立・公布済みで、施行日を定める政令を待つ段階です(2026年9月時点)。

  • 保管証書遺言の創設と、法務局での保管の仕組みは、公布(2026年6月24日)から3年以内に施行
  • 自筆証書遺言などの押印要件の廃止と、死亡危急時遺言・船舶遭難者遺言の新たな方式は、公布から1年以内に施行
  • 「遺言書」の文言に関わる税法上の措置は、令和9年度税制改正要望に入った段階

この先の流れ

  • 施行日:法務省の法案ページでは、施行日はいずれも「政令で定める日」とされています
  • 細かい手続:要綱案では、電磁的記録のファイル形式や本人確認資料などを法務省令で定めることが想定されています
  • 税制上の措置:例年12月に与党が取りまとめる税制改正大綱(令和9年度)で扱いが示されます。結果が出たら追記します

経過

  1. 法制審議会第199回会議で法務大臣が諮問第125号を発し、民法(遺言関係)部会の新設と付託を決定
  2. 民法(遺言関係)部会第1回会議で調査審議を開始
  3. 部会第11回会議で「民法(遺言関係)等の改正に関する中間試案」を取りまとめ
  4. 中間試案のパブリック・コメントを開始(9月23日まで。意見49件)
  5. 法制審議会第203回会議で部会長代理が中間試案を報告
  6. 部会第13回会議でパブリック・コメントの結果を報告。事務当局が乙案・丙案の採用と甲2案の不採用を提案
  7. 部会第17回会議で「民法(遺言関係)等の改正に関する要綱案」を全会一致で決定
  8. 法制審議会第204回会議で要綱案を全員賛成で採択し、法務大臣に答申
  9. 民法等の一部を改正する法律案を閣議決定し、国会(第221回)に提出
  10. 衆議院本会議で可決(5月22日に法務委員会で可決)
  11. 参議院本会議で可決・成立(6月16日に法務委員会で可決、附帯決議)
  12. 令和8年法律第45号として公布
  13. 令和9年度税制改正要望に「民法の改正(遺言制度の見直し)に伴う所要の措置〔法務省主担〕」が掲載

出典

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